こんにちは!タツ(@kumalabo_blog)です。
この記事では、榎本博明さんの『「対人不安」って何だろう?』という本を題材に、対人不安とはなんなのかということや、対人不安の原因や克服方法について紹介していきます。
対人不安とはひとことで言うと、人からどう思われるのかとか、どう評価されるのかを気にしすぎて不安になるという心理現象のことです。
僕自身もこうした対人不安の傾向があるタイプの人間だと思いますが、一方でこうした対人不安というものは経験やトレーニングである程度克服することができるものでもあると思っています。
『「対人不安」って何だろう?』では、対人不安という心理現象が発生する原因や克服方法について詳しく解説されています。
特に、対人不安の起きる原因についての解説は秀逸。
それではさっそく、対人不安とはなにかについて見ていきましょう。
この記事の内容
対人不安とは?
対人恐怖症とは異なる
まずはっきりさせておきたいのが、「対人不安」は「対人恐怖症」とは異なるということ。
対人不安の人は、普通に他人とコミュニケーションをとれますし、場合によっては他人から見たら明るく社交的な人と思われているかもしれません。
でも、他人とのコミュニケーションでこんなことを感じることってありませんか?
◆仲のいい人と一緒にいて楽しいけど、なぜか疲れる。
◆人が言った言葉や態度に過敏に反応してしまう。
◆無理して明るく振る舞っている。
◆自分の言動を振り返って自己嫌悪に陥る。
こういう感覚になることがよくあるという人は、対人不安の傾向があるかもしれません。
それでは対人不安とはいったい何なのか、見ていきましょう。
対人不安の特徴
デイビッド・バスの定義
対人不安とはなにか?
まずはアメリカの心理学者デイビット・バスによる定義を紹介します。
◆初めての場に慣れるのに時間がかかる
◆人に見られていると仕事に集中できない
◆とても照れ屋である
◆人前で話すときは不安になる
◆大勢の人の中では気をつかって疲れる
バスによると、上に挙げた項目に多く当てはまる人は対人不安の傾向があるというのです。
でも、アメリカだったらこれで対人不安と言われるのかもしれないですけど、日本人だったらほとんどの人がこれに当てはまるような気がします。
特に若い人だったらこの傾向が強いですよね。
『「対人不安』って何だろう?』の著者の榎本博明さんが受け持っている大学のクラスでも、ほとんどの学生が上記の項目に当てはまったそうです。
というわけで、本のなかでは対人不安の定義として、対人不安が生じるメカニズムにまで踏み込んだ「シュレンカーとリアリィの定義」を採用しています。
シュレンカーとリアリィの定義
シュレンカーとリアリィによる対人不安の定義とは
現実の、あるいは想像上の対人的場面において、他者から評価されたり、評価されることを予想することによって生じる不安。
というもの。
つまり人からどう思われるのか、どう評価されるのかを気にしすぎて不安になることが対人不安であるということです。
対人不安の原因は?
嫌われるのが怖い
対人不安の根本的な原因は、嫌われるのが怖いということです。
対人不安は、人からどう思われるのか、どう評価されるのかを気にしすぎて起きる不安ということでしたね。
つまり、他人から評価され、その結果嫌われたり見下されたりすることが怖いのです。
嫌われるのが怖いと、
嫌なのに誘いを断れないとか、SNSで相手の投稿にイラついているのに「いいね」を押すとか、もっと仲良くなりたいのに遠慮しすぎて仲良くなれないといった、感情と矛盾した行動を取ってしまいがちです。
嫌われるのが怖いという心理の奥には、自分の本当の気持ちを他人に知られるのが怖いという、自己開示への恐怖があります。
それではなぜ、他者に心を開くのが難しいのでしょうか。
なぜ心を開けないのか
ではなぜ、他者に対して心を開いて自己開示することが難しいのでしょうか。
その理由を本のなかでは3つに絞っています。
1,現在の関係のバランスを崩すことへの不安
2,深い相互理解に対する否定的感情
3,相手の反応に対する不安
簡単に言うと、
1は、いまの関係性で楽しくやっているのに、深入りして傷つけたり傷つけられたりすることが怖いという気持ち。
2は、自分の本当の気持ちを話してもどうせわかってもらえないだろうという、諦めの気持ち。
3は、人と違うとか変わっているとか思われたくないという気持ちです。
こうした気持ちの奥には、自分に自信がないという気持ちと、他者を心から信用することができないという心理があります。
そして、自己開示をすることが難しい対人不安の傾向が強い人ほど、評価懸念というものを気にする傾向があるそうです。
評価懸念と敵意帰属バイアス
評価懸念とは、相手からどう評価されているかが気になる。否定的に評価されていないか不安になるという心理です。
対人不安が強い人ほど評価懸念を強く意識してしまうんですね。
その結果、
相手はとくに何とも思っていないのに、相手から変に思われているのではないか、相手を傷つけてしまったのではないかなどと気になる。
相手がべつに機嫌を損ねたわけでもないのに、機嫌を損ねたと思い込む。
相手の何気ない言葉に勝手に怒りを感じ取ったり、何気ない態度に無視されたとか冷たくされたなどと思い込んだりする。
というようなことまで思ってしまうのです。
評価懸念の意識が強くなると、相手がなにも思っていなくても、相手の態度や言動から勝手に、相手が自分に敵意をもっているから、嫌っているからあんな態度をとるんだといった被害妄想的な心理に陥ってしまうようになります。
こうした心理は「敵意帰属バイアス」という認知の歪みによって引き起こされます。
このような評価懸念や敵意帰属バイアスを他者に対して抱く傾向のある人は、自分も他者から否定的に見られているのではないかという思いを抱きがちです。
こうした心理が対人不安につながっていくのですね。
日本語特有の対人関係性
さらに本書では、対人不安を抱く人が日本人に多いことについて、日本語の特性にもとづく要員があるのではないかとも分析しています。
対人関係は、自分と相手との関係性で決まります。
これが英語などの言語だと、どんな関係性だろうと自分は「I」ですし、相手は「You」ですよね。
これが日本語になると、相手との関係性によって自分や相手の呼び方を変えなければなりません。
たとえば男性であれば「僕」と言ったり「俺」と言ったり、「私」や「自分」、子どもに対しては「パパ」や「お父さん」といった一人称を使ったりしますよね。
英語で「You」で済むところも、「あなた」なのか「君」なのか「おまえ」なのか、相手との関係性や距離感で呼び方を判断しなければなりません。
こうした他者との関係性を判断する必要性がある日本語という言語が、対人的な問題を複雑にし、対人不安を抱える人を多く生み出している要員の一つではないかというのですね。
自己モニタリングのチェックと尺度
さて、対人不安について、定義や原因を書いてきましたが、「そんなこと分かってるけど、どうしようもないのが対人不安なんだよ」と考える人もいると思います。
そういう人のために、もう少し分かりやすい指標となるのが「自己モニタリング」というものです。
自己モニタリング(セルフ・モニタリング)は、心理学者のマーク・スナイダーが提起した概念です。
自己モニタリングとは、周囲の状況を判断し(他者の表出行動への感受性)、自分がその場でどう振る舞うかを決める(自己呈示の修正能力)、という判断基準のこと。
世の中には自己モニタリングが強い人と、自己モニタリングが弱い人がいるんですね。
自己モニタリングの傾向が強い人は、周囲の状況に応じて、自分がどう行動するかを決めようとする傾向があります。
一方、自己モニタリングの傾向の弱い人は、周囲の状況や、自分がどう思われているかに関係なく、自分の気持ちや感覚を優先して行動する傾向があります。
自己モニタリングの傾向が強い人も弱い人も、一長一短があります。
たとえば自己モニタリングの傾向が強い人は、円滑な人間関係やチームワークが得意ですが、周囲に流されやすいという面があるかもしれませんし、自己モニタリングの傾向が弱い人は、頑固でとっつきにくいけど、周囲に流されず目的を達成するというようなところがあるかもしれません。
対人不安が強い人も自己モニタリングの傾向が強いです。
ただ、対人不安の人の自己モニタリングにはズレがあるのです。
どういうことなのか。
まずは次に載せる「レノックスとウォルフによる自己モニタリング尺度」というチェックに答えてみてください。
レノックスとウォルフによる自己モニタリング尺度
以下の質問は、レノックスとウォルフによる自己モニタリング尺度というものです。
この質問で自己モニタリングの強さをチェックすることができます。
項目A
・相手の目を見ることで、自分が不適切なことを言ってしまったことにたいてい気づくことができる
・他者の感情や意図を読み取ることに関して、私の直感はよくあたる
・だれかが嘘をついたときは、その人の様子からすぐに見抜くことができる
・話している相手のちょっとした表情の変化にも敏感である
項目B
・その場でどうすることが求められているのかがわかれば、それに合わせて行動を調整するのは容易いことだ
・どんな状況に置かれても、そこで要求されている条件に合わせて行動することができる
・相手にどんな印象を与えたいかに応じて、つきあい方をうまく調整することができる
いかがでしたでしょうか。
項目Aは「他者の表出行動への感受性」因子の測定項目。
つまり、周囲の状況を読み取る能力(読解能力)。
項目Bは「自己呈示の修正能力」因子の測定項目。
つまり、自分がどう振る舞うべきかを考え、自分を演出する能力(自己コントロール能力)です。
自己モニタリングのズレ
そして、対人不安が強い人は上記のチェックの結果がどうなるかというと、項目Aは多く当てはまるけど項目Bはあまり当てはまらないという結果になります。
つまりこれは、自己モニタリングのズレが生じているということなんですね。
つまり、周囲の状況を読み取ることはできても、それに合わせて「こう見られたい」という自己イメージにふさわしい自分の見せ方をすることが苦手なのです。
こうしたことが原因で、人付き合いに消耗してしまうのですね。
対人不安の克服方法と考え方
最後に、対人不安を克服する方法はあるのでしょうか。
適度な対人不安は、ほとんどの日本人がもっているものだと思いますし、周囲に気を使って空気を読むというのはある意味で日本人の美徳でもあると思います。
これまで見てきたようなことから、対人不安とは「他者の表出行動への感受性」(読解能力)が高いにも関わらず「自己呈示の修正能力」(自己コントロール能力)が低いという自己モニタリングのズレが原因になっていることが分かりました。
なので、克服方法としては「自己呈示の修正能力」を高めればいいということですよね。
そしてこの「自己呈示の修正能力」は、人が本来持っている性質というよりも、経験やトレーニングによって身につけることができるものであると思います。
本のなかでも最後の章で対人不安を和らげる方法として、
「人の目」をほどほどに気にするようにする。
相手も不安なんだから気にしない。
「人の目」に映る自分より、相手そのものを見る。
SNSから離れる時間をもつ。
といった方法を提案しています。
僕が個人的におすすめしたい考え方は、視野を広げるということ、ちょっとずつ自己開示してみる、合わない人は合わないと考える、ということです。
まず、人間関係が固定されている場合、なかなかいまの人間関係から抜け出すことは難しいです。
たとえば家や学校、所属しているグループなどで、自分はこういうキャラであるという印象付けがなされている場合、そのキャラから外れたことをするのは勇気がいりますよね。
視野を広げて、今までの自分を知らない人と関わるようにすれば、本来の自分を出すことができるかもしれません。
もう一つは、ちょっとずつ自己開示してみるということです。
いま周囲から思われているキャラに新しいキャラを付け足すというイメージですね。
たとえば、普段は天然キャラでおっとりしてると思われているなら、少しずつ、そうじゃない面を出していってみてはどうでしょうか。
そういう側面が少しずつ周りに認知されていくと、キャラの幅が広がっていって、本来の自分を自然に出せるようになるかもしれません。
最後は、合わない人は合わないと考えるということです。
世の中のすべての人に分かってもらおうとか、すべての人に好かれたいとかいうのは、ありえないことだと思います。
合わない人との人間関係で消耗するよりは、そういう人とはあまり関わらないようにしたり、表面的に付き合っていくのがいいかもしれません。
おわりに
以上、「対人不安」というものをテーマに、『「対人不安」って何だろう?』という本を紹介しながら、原因や克服方法について紹介しました。
この記事が参考になれば嬉しいです。